少数派の宴

「35.5秒」
聞こえた声に、<トカゲ>は顔を上げた。
汗が首筋を伝う。
見ると、<煙草屋>が腕時計をしまう所だった。

「並みだな。血液が一滴も出ないのは中々……」
「お前!」
<トカゲ>は<煙草屋>に詰め寄った。
どこか病的な<煙草屋>に比べ、<トカゲ>は確かに威圧感がある。

「何か?」
眼鏡の奥から覗く、寒々しい瞳。
「突然――――なにをするんだ!?」
今なら分かる。
<煙草屋>が両手を切り落としたのだ。躊躇なく。

激昂した<トカゲ>を嘲けるかのように、<煙草屋>は笑った。
「治ったから良いだろ?」

「――ちょっとお待ち」
自我を無くした<トカゲ>が拳を振りかざした瞬間、老婆の声が響いた。
「面倒事は御免だよ。中に入りな」
ふと見ると、少し遠くで村人達がこちらを眺めている。

その不審げな視線に<トカゲ>の気迫は急速に萎み、<煙草屋>を一睨みしただけで老婆に続いた。

<煙草屋>は戻って車から小型PCを持ち出そうとし、

ピリリリリ

――――助手席。
圏外の携帯からの着信。
けれど<煙草屋>はそれを置いたままで、老婆の家に入っていった。


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