風になれ
「あのね、野風。
 伊久、みーちゃんとペア組もうと思う」

2回めの番手戦が終わったあと
伊久ちゃんがそう言ってきた。

「伊久と野風の力の差は歴然としてる。
 みーちゃんは伊久と実力も近いし
 野風は優子と組んだほうがいいと思う。
 正直、伊久は野風ほど上手くないし
 テニスをすきになれないよ」

まだ拒絶されることの悲しさを
知らない伊久ちゃんは
そんな残酷な言葉を向けて
南の元へと行ってしまった。
きっと本人はもう
忘れてるだろうけどね。

正直、そのときの私も上手くなくて
ただすきなだけだった。
けど、〈上手いから〉と罵倒されたのは
人生において初めてで
じゃあ頑張ってもだめなら
どーすりゃいいのよ、と
悩んだのは言うまでもない。
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