ロバの少女~咎人の島
偽りの中に
再会

「レン!」

自分でも驚くほど大きな声が出た

キジは驚いたようにミキのほうに振り向いたが
状況が飲み込めない様子で、ミキから後ずさる

「レン!どうして戻ったの?それに面が違う」

キジは明らかに戸惑っている

「レン」

もう一度名を呼んだところで

やっとキジは口を開いた

「悪いけど、人違いじゃないかな?」

だって
あの飾り紐はレンのしるし

「オレはヨーク。昨日、ここに来た。新入りのキジ。それに元の名も、レンじゃない。」
「こんな時間にどうして桟橋にいたの?」

「世では、魚売りをしていたから。あ、こういうのもしゃべるとまずいのかな?世の名前は教えてあげられない決まりだし。」

黙ってうつむいてしまったミキに、ヨークは慌てたのか、早口でまくし立てる

「海は好きなんだ」

「二人とも、各自の長屋に帰りなさい。」

いくらも経たぬうちに、監視が月明かりの下の現れた

猫の女
どうせ、面を覚えても仕方ない
何度か監視の目を逃れるため、監視を特定しようとしたことがあった

けれど
現れる監視は不特定多数で、無駄だと知った

「・・はい」

「あ、はい」
ミキにつられて、緊張した顔でキジの面が答えた


「ロバ、これは忠告です。あなたは規則とは違う動きが目立ちます。気をつけなさい。」
「はい・・」


何をしたというのか

また、あっという間に居なくなった監視を見届けてミキは歩き出した

「ねぇ、ロバの名前は?」
「・・ミキ」
「ミキ、またね。」

ミキは立ち止まったが振り返らず、また歩き出した

面の隙間からこぼれた雫をヨークは気がついただろうか?
心臓がチクチクした
細い針を飲み込んだみたいで、それは痛みから涙になった

レンじゃない
そんなはず無い
飾り紐は確かにミキのものだったし
「またね」といった声は懐かしかった

でも、レンはミキを覚えていなかった


全く

たった数日、世に戻っただけで
すっかり忘れてしまっていた


私も世に戻ったら
忘れてしまうの?

ゆっくり流れえる島の時間の中で
ミキは月を見上げながら長屋に戻った
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