霄月

月兎

月兎



『僕はどこにいるの?
ここにいるの?』
 
目を瞑っているのかあけてあるのかもわからないような、暗いくらい穴の中で、その子はずっと思っていました。
 
月の光も、星の光も少ししか届かない闇のなか。
その子は一人うずくまっています。
 
『誰もいないの?
いると思っているのは僕だけで、本当は僕なんて存在していないの?』
 
暗やみは、その子を覆い隠して寂しさをあたえます。
 
『おいで。』
 
『誰?』
 
『外に出てくれはわかるよ。』
 
誰かが話し掛けます。
 
優しい声でした。その子は優しい声に誘われて、一歩また一歩と、恐る恐る、でも確実に外へ向かって歩きます。
 
外に出るのはいつぶりでしょう。
少し冷たい、澄んだ空気を胸いっぱいに吸って、その子は外へ出てきました。
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