楽園の炎
---あまり見ない肌の色だな・・・・・・。異人か? こんなところに?---

アルファルドの人間は、基本的に色素が薄い。
最近でこそ、いろいろな国からやってきた異人も多くなり、いろいろな肌の人間を目にすることも多くなったが、やはり普段王宮にいると、触れ合う異人も限られてくる。

思わず朱夏は、警戒心も忘れて、まじまじと目の前の人物を観察した。

と。

「誰だっ!」

鋭い誰何の声と共に、朱夏の前の木に、ごく小さな短剣が突き刺さった。
驚いて、朱夏は無意識に腰の剣に手をかける。
木から飛び退ったため、泉の人物と、真正面からばっちりと向かい合う形になる。

胸の辺りまで水に浸かってこちらを睨んでいるのは、若い男だった。
鋭い漆黒の瞳が、浅黒い肌に良く映える。

朱夏の姿を認めて、男も驚いたように、動きをなくしている。

「・・・・・・随分、物騒な奴ね。お前こそ、こんなところで何をしている。異人がこんなところまで入り込むと、下手したら、森から出られなくなるわよ」

他に人のいないことを確かめ、朱夏は静かに言った。
警戒心を緩めたとはいえ、気配を察するところといい、いきなり攻撃するところといい、間違ってもこの国の者ではない。
見てくれからして全く違うが、長くこの国で暮らしている者なら、それなりに鈍っているものだ。

しかし男には、一切の隙もないぐらい研ぎ澄まされた、野生動物のような雰囲気があった。
< 10 / 811 >

この作品をシェア

pagetop