楽園の炎
男はしばらくじろじろと朱夏を見ていたが、やがて水面に視線を落とすと、ぽつりと呟いた。

「ちょっと、大事な物を、落としてしまったんだが・・・・・・」

え、と思い、朱夏は水際まで走り寄った。

「落としたって、この中に? 大事な物を?」

水面を覗き込み、今にも飛び込みそうな朱夏に、男は驚いた顔になる。

「それで、潜って探してたの? どんな物だ? 相当大事な物なの?」

「わー! ちょっと落ち着け! いい! 大丈夫だから」

早口に問いながら身を乗り出す朱夏を、慌てて押し留めながら、男はもう一度水面に視線を落とすと、諦めたように背を向けた。

「まぁいいさ。見つからんもんは、しょうがない。綺麗な泉だ。水の精霊にでも、持って行かれたんだろうさ」

言いながら、少し離れたところに上がると、木に引っかけてあった衣服らしい布を取った。
リンズとは違う、上衣と下衣に分かれた、複雑そうな衣だ。
男はそのうち、大きな一枚の布を手早く身体に巻き付けると、帯をまわし、腰で縛った。
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