楽園の炎
「ん? ああ、ククルカン皇家のメダルだな」

ちらりとメダルを見た憂杏が、軽く言う。
皇家の管理する物には、皇家の紋章が刻まれるため、このメダルがククルカン皇家発行のメダルなら、紋章が刻まれていても、何ら不思議はない。

だが。

「これは・・・・・・。これ、皇家のものよ。ほら、ただのメダルじゃなく、純金だわ」

言いながらナスル姫が、えい、と箱にメダルをぶつける。
メダルの端に、傷がついた。

訝しげな顔をする憂杏に、ナスル姫は少し不安な表情になった。

「ねぇ。ここの商人って、どういう人なの? 盗品とかを、扱ってるわけじゃないの?」

「どういうことだ?」

「憂杏のお仲間を、悪く言いたくはないけど。でも、これは皇族以外の人間が、持ってるわけのないものなの。もしかしたら、ここの商人が何かしたことに対する、お礼で下げ渡したのかもしれないけど」

憂杏は、腕組みをして考え込んだ。
あのユウが盗人とも思えないが、このような素晴らしいお礼をされるほど良い奴か、と問われると、どうだろう。
良い奴は良い奴だが、お人好しではないのだ。

「まさか、お兄様の身に何か? もしかしたら、殺されて奪われたのかもしれないわ! ここの商人が手を下したわけじゃなくても、そういうものが出回っても、おかしくないでしょ?」

だんだん声が荒くなるナスル姫を宥めるように、憂杏は立ち上がって姫の肩に手を置いた。

「お兄様って・・・・・・皇太子だろ。皇太子の身に何かあったら、すぐに大騒ぎになるはずだぜ。けどそんなこと、噂にも上らん。大丈夫だって」

ぽんぽんと肩を叩く憂杏に、小さく、違うのよ、と呟き、ナスル姫は、くるりと踵を返した。
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