楽園の炎
「朱夏の土産なら、良い店があるんだが」

「え、どこ?」

歩き出す憂杏の袖を掴んで、ナスル姫がうきうきとついてくる。
好奇心旺盛なところは、朱夏に似ていると思ったが、やっぱり違うなぁ、と、憂杏は引っ張られる袖の感触に、ちょっと笑った。

しばらく歩いて、憂杏はユウの天幕の前に来た。

「ここだ。旅の途中で会った、仲間だよ。結構良い品扱ってるんだ。ん?」

天幕はあるが、店は出ていない。

「休みか? おいユウ、いないのか?」

布を跳ね上げ、憂杏は薄暗い天幕の中を覗き込んだ。
品も何もかもそのままだが、ユウはいない。

「・・・・・・いないみたいだな」

「まぁ。残念だわ」

憂杏の後ろから、ぴょこんと天幕を覗き込んだナスル姫が、いかにも残念そうに言った。

「でも品はあるから、気に入った物があれば、代金置いておけばいいぜ。俺が責任持つから」

商品の入った箱をぽんぽんと叩きながら、憂杏が言う。
ナスル姫は、商品よりも天幕が珍しいのか、中に入ってきょろきょろと見回している。

「あんまり新しい物はないな。仕入れにでも、行ってるのかな」

箱の中をがさごそと探る憂杏の前に、ナスル姫が座り込んだ。

「いいの? 大事な商品なんじゃなくて?」

「いいんだよ。俺が店番やったこともあるんだから。ほら、これなんかどうだ?」

気にせず箱を漁る憂杏につられて、箱を覗き込んでいたナスル姫は、ふと一つのメダルに視線が吸い寄せられた。

羽の生えた蛇が刻まれた、小さなメダル。
ククルカン皇家の紋章だ。

姫はメダルを手に取った。
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