楽園の炎
扉を開けると、桂枝が憂杏を認め、頬を引き攣らせた。

「お前はまた、そのような格好で。内宮に来るのがわかっているのなら、もうちょっときちんとした服装をしてくるぐらいの気を遣えないのですか」

「生憎、そんなきちんとした服は、持っておりませんので。何、服装だけ取り繕っても、この王宮に詰める者は、どうせ私のことはお見通しではありませんか」

へら、と笑う憂杏に、桂枝はため息をつく。
朱夏は部屋の中を見渡した。

「あれ、桂枝。ナスル姫様は? まだいらしてないの?」

「それなんですけどね」

お茶を用意しながら、桂枝が言う。

「どうやら体調を崩されたようで。今朝から、お熱があるそうですよ」

「えっ」

驚き、同時にちら、と憂杏を見る。
憂杏は特に動じる風もなく、持ってきた袋から、鞘に使うと思しき道具を取り出している。

「そっかぁ。ここ最近、ナスル姫様もお忙しかったかもしれないから、疲れが出たのかしら。残念。後でお見舞いに行こうかしらね」

何気なく憂杏に言ってみるが、彼が口を開く前に、桂枝が厳しい顔で釘を刺した。

「お前は行かなくてよろしい。弱っていらっしゃるところに、お前のような無骨者が押しかけたら、良くなるどころか、卒倒してしまわれる」

えらい言われようだ、と思いながら、朱夏はひっそりとため息をついた。
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