楽園の炎
「ああほら。炎駒様が、帰ってらっしゃったじゃありませんか」

アルが慌てて出て行く。
朱夏も、とりあえず脱ぎかけていたリンズの帯を締め直し、居間に行った。

「お帰りなさい、父上」

「まぁ朱夏様。何着直してるんですか」

「だって、何だかもったいないんだもん」

朱夏とアルのやり取りを、笑いながら聞いていた炎駒は、居間の長椅子に寝ている憂杏に目をやった。
憂杏は、すでに寝息を立てている。

「おや。部屋は用意してやらなかったのか?」

「帰ってくるなり、寝ちゃったのよ。このおっきな身体を動かすのは、ちょっと無理です」

朱夏は、つんつんと眠りこける憂杏の頭をつついた。

「憂杏とナスル姫様のことは、とりあえず落ち着いたようだな」

椅子に座り、炎駒が呟いた。
桂枝が用意したグラスに、いつもの酒を注ぐ。

「桂枝も、これからしばらくは、ナスル姫様を娘として扱いなさい。難しいだろうが、姫君もまだお若い。わからないことも多々あろうから、桂枝が母親になって、いろいろ教えて差し上げないと、彼女も困るだろう」

「・・・・・・難しいですわ」

困ったように言う桂枝に、炎駒はふと朱夏を見た。

「朱夏だと思えばいいではないか。そうそう、お前もナスル姫様と、もうちょっと対等に接して差し上げたほうがいいかもな。夕星殿には全く普通に喋るのに、ナスル姫様には堅いではないか。本来、反対なのだぞ」
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