楽園の炎
「失礼します。・・・・・・アシェン様、起きて大丈夫なのですか?」

「ええ。この薬草のお陰です。すっきり爽快、とまではいきませんが、気分はもう悪くありません。ありがとうございます」

立ち上がろうとしたが、思い直し、アシェンは座ったまま、頭を下げた。
なるべく、対等に接するよう、努力してみようと思ったのだ。
憂杏が、『あまりに堅かったら、アルが困る』と言ったことが、やけに気になっていた。

「よぅございました。お休みになられたようですし、顔色も、大分良くなっておりますわ」

やっぱり、寝ているところを見られたのだ、と、アシェンはひっそりと顔を赤らめた。

そんなことには気づかず、アルは持ってきた盆をサイドテーブルに置くと、香炉の薬草を新しく取り替えた。
再び、薬草の匂いが立ちこめる。

「アシェン様、お腹の具合はどうです? 食べられそうなら、と思い、お粥を炊いてきたのですけど」

サイドテーブルに置いた盆には、美味そうな湯気を立てている椀が一つ載っている。

「ほとんど米粒がないぐらいまで炊きましたし、お腹に良い薬草も入れましたので、するする食べられると思うのですけど」

「本当に、何から何まで申し訳ない。あなたには、情けない姿ばかり見られて、恥ずかしいばかりです」

情けない姿って何だろう。
酔って、倒れたことだろうか?

船酔いなど珍しいことではないし、別に鍛えたからどうこうできるものでもない。
仕方ないことなので、そんなこと、別にアルは気にしないのだが。

「そんな気にすることでもないですよ。ふふ、よく寝てらしたから、安心しましたわ。いつもびしっとしておられるから、ちょっと新鮮でした」

笑って言うと、アシェンは面食らったように、アルを見つめた。
そして、しきりに照れる。
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