楽園の炎
「はい。熱が出るかもしれないからって、お薬よ」

朱夏は目の前の器を手に取り、じっと中身を見た。
臭いはないが、色は前のものと似たような不気味さだ。

そろそろと視線を上げると、寝室の入り口に立つ憂杏と目が合う。

「ちゃんと飲めよ」

「・・・・・・ね、熱、ないんだけど・・・・・・」

「今はなくても、出るかもしれん。これでお前が寝込んだりしたら、それこそユウの怒りは収まらないぜ。とっとと治すことだな」

元気なんだけどな、と思いつつも、朱夏は恐る恐る器に口を付けた。
確かに憂杏の言うとおり、朱夏が変わらず元気でいないと、夕星だけでない、周りにも迷惑をかけてしまう。
そう言い聞かせ、頑張って薬を飲み干した。

「よし。じゃあ後は、よっく寝ろ。すぐそこに、俺もいるから」

器を朱夏の手から取り、憂杏は少し離れたところの、もう一つの寝台を指した。
いつも憂杏は、そこで寝ているのだろう。
まだ正式なお許しが出ていないので、同じ寝台は使わないが、できるだけ近くにいるらしい。

大変だなぁ、と感心しつつ、朱夏はナスル姫と布団に潜り込んだ。
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