楽園の炎
早くも桂枝は、涙ぐんでいる。
ちょっと離れていただけでこれなら、婚儀の最中など、大丈夫だろうか。

息子の結婚式に加えて、ほとんど娘も同然の、朱夏の結婚式でもあるのだ。

「もう、しっかりしてよ。あれ、そういえば、憂杏は? 桂枝が来たってのに、何やってるのよ」

朱夏が葵に問うと、葵は、あはは、と笑った。

「ニオベ姫に捕まってるのさ。最近は、寝付くまで離さないからねぇ。でももう遅いし、ニオベ様も寝たんじゃない?」

「ニオベ姫様といえば、皇太子殿下のお嬢様。ほぅ、そんなおかたにも、憂杏は好かれておりますのか」

炎駒は、少し感心したように言ったが、横で桂枝が、ひいぃぃっと息を呑んだ。
皇帝陛下の娘に続いて、皇太子殿下の娘まで! と、母親からしたら、気が気でないようだ。

「全くニオベは。息子さんを振り回して、申し訳ないな」

皇太子が桂枝に詫びるが、桂枝は、あわわ、と動転するばかりだ。

「とと、とんでもない。全くうちの愚息が、あろうことか、皇太子殿下のお姫様を。全く本当に、身分をわきまえませんで・・・・・・」

ひたすら平伏する。
皇太子は苦笑いし、ぽんぽんと桂枝の肩を叩いた。

「そんなことはない。なかなか優秀なかただよ、憂杏殿は。さ、立ち話も何だ。お疲れだろう、部屋にお連れしましょう」

皆を促し、皇太子はアルファルドの一行を、城の中へと誘った。
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