まどろみの淵にて~執事ヒューマノイドの失われた記憶~


「はて、これほど降るのはいつぶりのことだろうか」


私はお屋敷に勤めて四十数年経つが、降ってもボタ雪ばかりである。水鳥の羽毛のような雪が舞い落ちてくることは本当に珍しい。


しばらく眺めていたのだが、音のない世界というのは現実感が全くなくて、窓枠の向こう側は涅槃にでも繋がっているのではないかと思えてくる。そのままスルリ吸い込まれてしまいそうな気がして急に恐ろしくなり、慌てて視線を他へ移した。



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