独身マン
「おはよう!」



正義は出社すると、朝一番に春海に明るく声をかけた。 そして肩をポンと叩く。



「なんで電話してるのにかけなおしてくれないのさ」


「あ、ごめんなさい! また電話くると思って!」



春海は手を合わせて謝ってきた。 「失敗★」なんて顔しながらニコニコ笑って。



というのは妄想で、きっかけがなければ顔を見ることもできない情けない奴。 自ら声をかけられないのも本人が1番よく理解している。



「ねー、今度の土曜日に行きたい料理屋があるんだー! インド料理屋なんだけど、おいしいらしいよー」


「へー。 どこ?」



隣の席ではバカカップルがデートの約束をしている。 雑誌をみながら話しているだけなのに、近づいてはいけないようなオーラが2人から飛び出ている。



(クソクソ! こっちの気も知らないで! 別れろ ボ~ケ)



不幸せな自分が可哀想でイライラするし、そしてなによりちょっぴり淋しい。



「値段のわりには量も多いし、あ、あったココ!」


「あ、知ってるよ、ココ」


(あ~! うるさいうるさい!)



さえと英が付き合っていると知ってから、正義はさえに連絡をしていなければ、話し掛けてもいない。 目もあわせたくない。
< 206 / 258 >

この作品をシェア

pagetop