門限9時の領収書
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運動場の端に建てられた不自然な物体は、西日をたっぷり浴びて熱を持っている。

服飾コースしか入れない護衛兵(見張り警備員さん)付きの城(校舎)の中には、

アトリエと呼ばれる小さな部屋がある。


色鉛筆を並べた机には、紙切れがたくさん、そして人影が二つ。

もうすぐ最終下校の時間となり、片付けを始める。


  はあ……

早く生地を決めて型を取りはじめなければならないのに、

ちっとも進みやしない――、とある少年による約三時間耐久PC画面とにらめっこがおわりを告げた。


  あーあ……

制服のネクタイを外した洋平は、三時間分のため息ばかりで重たくなった空間の中、軽く背伸びをする。


マドカ高校のアトリエ室を利用できるのは学年で三人のみ、

去年から引き続き二年生は雅と女子生徒の静香、そしてなんとか洋平はメンバー入りすることができた。

それもこれも彼女のお陰だったと言ってもあながち嘘にはならないであろう。


 ……。

なんだかやる気が出ない。友人である雅は、とっくの昔に生地を決めて縫いはじめているというのに。

焦る割にどうも頭が働かない。


……こういうやるせない時、男は行きずりの女を抱いてやり過ごすのだろうか。

なんとか前を向くために、気を紛らわすのだろうか。

それが仮にも男という人間による解決方法の定番だとするならば、自分はばりばり男失格だと断言できる。


だって、誰でもいい訳ではないし、

好きでもない女とそうなるなんて、洋平としては言葉が悪いも気持ちが悪い。

そもそもそういう行為は愛がないと勿体ないと思うからだ。


絶対に嫌だ。なぜならチャーミングな彼は理性的な愛し方をしたい為。

友人周りにやんちゃしている奴が居るには居て、

理解するようにしているが、心底ではあいにく共感できていない。

理由は病気が怖いから、ということにしておこう。

本当は愛とはどーたらこーたら彼なりの持論はあるも、

温い人生を歩む洋平が熱弁しようが浅くなるだけなので、

わざわざ恥をかく嗜好はないからと口外しないヘタレ具合は、むしろ素晴らしい個性だということにしておく。

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