門限9時の領収書


深い海に沈む少年。
無垢な寝息を前にしては、どんなヒーリングCDも敵わないだろう。


 ……。

作業を再開させるつもりだったけれど、気分が乗らないので良平の隣に洋平も寝転んだ。

子供と眠ると翌朝清潔になれる魔法がかかるのは何故。


どうして結衣のことを切り出す際、前提なのだろうか。

クラスメートに同級生、父親。
まだ洋平は手を出せないでいるのに、皆そうで当たり前なもんだと話を振る。

つまり“遅い”のだろう。

……分かっている。


けれど、自分は些細な幸せを大事にしたいのだ。

マイペースに寄り道ばかりしていたい。

結衣と長く一緒に居たいから、わざと遠回りがしたくて……あえて渋滞の道を選ぶのだっていい。

リニアモーターカーも魅力的だけれど、あえて鈍行で進んだって粋じゃないか。


早送りで飛ばす――時間は有効に使えたとしても、

洗練されていない洋平は大切なものを見落としてしまうから。


小さな変化を慈しみたい。
間違っても泣かしたくないし、好かれていたい。

毎日あの子を笑わせたい。
そもそもまだ笑わせ足りない洋平だから、もっと笑わせてもっと知ってもらって、ゆっくり愛したい。


スムーズな恋愛なんて便利過ぎて勿体ないじゃないか。

手間隙かけた方が思い入れが強くなるだろう?
赤ちゃんが生まれてすぐ喋らないみたいに。

もちろん強がり。本能に従えばキスなんて生温いし物足りない。


けれども、例えばビジューを両手に集めて、ジャングルジムからばらまいたとして――

流星群だと爆笑したい。


雑に散らかして。今を満喫して。
笑った笑顔が好き。漢字を重複させるくらいに洋平は結衣が好きだ。

明日はきっと晴れ。そのくらいでいい。


…‥

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