門限9時の領収書

深緑と黄なり色を基調とした店内は、カジュアル過ぎず、かといって厳格な趣がある訳でもなく、

簡素な和といった感じが、まあまあ様になっているように思う。

呼び出されたので、とりあえず棚に狐色の売り物を並べてから、洋平は表へと出た。


六時二十分、もうすぐひどく混み出す店内は、この時間帯に一瞬だけ客足が引く謎。

立地条件の影響なのか、四時から五時半にかけてが学生ピーク、七時前からは晩ご飯客が増える。

従って、今店内に居るのは従業員の四人と、目の前に居るお客さん二人と三人組の中学生男子のみ。

静かなようで、ナップサックが似合う彼らのお陰で店内は少し喧しい。



『何、コンコン、カノジョ見たからな?』


そこに居たのは第一印象でガラが悪いと判断されるであろう旧友二人組だった。

にったりとした笑顔に、洋平は内心またかと舌打ちをする。


  ……。

せっかく中学の仲間に会ったのだから、喜ばしいはずなのだけれど、

彼の心は沈んでしまっていた。


「……ああ、うん。彼女」


煮え切らない態度。

誰か教えてほしい。

例えば洋平が愚かな人間なのかという疑惑を晴らしてほしい。

分からない――強くなりたいのに元がヘタレだ。

黙ることが大人力だと信じ込もうとしていただけ?


結衣に会いたかった。
早く会いたかった。

笑ってくれたならだいたい上手くいくのだから、わだかまりなんて消えるはずだ。


田上結衣、たった一人の好きな人。

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