門限9時の領収書
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  まつ毛、可愛いな……

ひじきみたいなマスカラや自然過ぎる職人芸なエクステ、

CG並に束だったりお人形風にセパレートだったりの付けまつ毛……女の子のお化粧事情は、

メイクに無頓着な男の子だって接近戦になると本能なのか観察してしまうもの。


空全体を赤く染める太陽が建物の西側を輝かせている。

いいや、この時間帯なら太陽よりは夕日と呼ぶべきかもしれない。

軽やかな空気は一週間前からだろうか、べたついて湿度を増してきたように思う。

(じっとしていても頭皮に汗が張り付き、朝にセットした髪がへたってしまうから嫌だ)


  可愛い、唇……

後数回程 朝日を浴びればカレンダーを一枚めくらなくてはならない。

七月といえば、小学生の頃は七夕を待ち望んでいたが、もういい歳なのでさすがに夜空を眺めやしない。

いつも翌月になって数日が経つまで気付かず、先月の予定を飾ったままにしてしまう洋平だ。


それにしても電車の中は六月らしく空気がこもっているので、余計に暑苦しく感じる。


「楽しかったー」

声にスタッカートを付けたように話す髪の長い女の子が、

携帯電話を広げたくらいの大きさの紙切れを眺めてから、

隣に居る男の子に向けて柔らかく微笑んだ。


  ……。

気を抜いたら場所を弁えず とろけそうな甘い唇にキスを落としたくなるので、

少年は「うん、でも腕疲れたかも」と、少女を視界から外してから平然を装い返事をした。


――最近の洋平は、長い間見つめることに弱くなってしまったらしい。

どうにも平常心を保てない。


落ち着きがない幼児のように 終始そわそわしてしまうなんて、実に格好悪い。

幼い恋心に舌打ちしたくてたまらない彼は、正に男という人間である。

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