門限9時の領収書
結衣の駅まで迎えに行くと言うと、悪いからと断られ、
洋平の駅まで迎えに行くと提案すると、嫌だと却下された。
なんでも、いらっしゃいと言われるのが夢らしく、照れ臭そうに語る彼女が可愛くて、
好きになって良かったとまた嬉しく思ったので、大人しく彼氏はお留守番をすることにした。
しかし駅から自宅まで描いた地図をたよりに、無事一人で辿り着けるだろうか。
方向音痴ではないようなので安心なものの、はじめてのおつかいのように心配だ。
地図が読めない人はなんで理解できないのかよく分からないけれど、
それは生れつきだからどうしようもないと開き直った元彼女が言っていた。
どうして昔、好きだった人を今思い出すのか――終了した関係でも、こういう自分になっている影響を及ぼしたのは、連絡先を知らない過去の交際相手。
確かに好きだったのに、別れたら好きの種類が変わる不思議。
……はあ、緊張する
部屋、引かない、よな?
お昼はお互い済ませている。
なのでビデオを見ながら何か軽めに摘めばいい。
お菓子(辛めなスナック系、甘めなチョコ、クッキー)と、
飲み物(お茶、コーラ、オレンジジュースをベタに)を、
お約束に一通り用意しているので大丈夫だろう。
(ちなみにミネラルウォーターを出すのはキザな気がしたので、やめておいた。先入観ありきな洋平)
……緊張ばかりだ。
独特な生活臭が各家庭にあるらしく、結衣に近藤家が匂うと思われたら困る。
普段気にしないことが気になる気になる。
たかが家デート、馬鹿みたいに落ち着かない。
なんてユニークな恋心なのだろうか。
この日の為に毎朝弟を起こしたし、とにかく頑張った。