虫の影と夢の音
美しい冬。


そんな風に名をつけた両親は、自分達が許可した者だけを美冬の部屋に通した。


だから美冬は、世の中には少数の人しかいないものだと思っていた。
 

それは違うと言った人を思い出す。


一緒にここから出よう。


そう言った人を。


滝崎。


彼はそう名乗った。


滝崎は美冬の姓でもある。


けれど、それまで彼が部屋に来たことはなかったし、いつもなら連れてくるはずの両親は一緒ではなかった。


彼は家族中のどの人にもとがめられずに家の中を行き来出来る立場なのだと言っていた。


「美冬さん、どうも駄目だ。この家はおかしい」
 

滝崎はそう言ったけれど、美冬には何がおかしいのかわからなかった。


滝崎の言うおかしい家が自分にとっては当たり前のものだった。


知らないから、何かと比べておかしいと思える要素はないのだ。
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