“スキ”を10文字以内で答えよ
パタパタッ、と茶色い机の上に落ちる、深い赤。
視界でそれを捕らえた後に響く、希里の叫び声。
不思議なことに、痛みは全く感じない。
私の心が動揺しているからなのだろうか。
痛みよりむしろ、その本を皆が知っていて、読んでいるという事に、恐ろしさを感じている。
これを書いているのが私だって知られたら……。
今の血よりも紅い空気が、私を支配する事になる。絶対。
「実依ッ!大丈夫?!……じゃないよね!!保健室!!保健室行かなきゃ!!」
「いや、全然、平気。大丈夫」
「大丈夫な訳ないでしょー!!」
希里が必要以上に騒ぐから、前の席の女子たちが、真っ青な顔で私の掌を見つめている。
先生も、「どうした」と席を立って、私を見、驚いた顔をしている。
「実依、保健室行っておいで」
「奈神、早く行ってこい。授業はいいから」
先生、授業やってるつもりだったんですか。
そんな下らないツッコミを入れ、もう一度、ベッタリとくっついた赤を見る。
「…うん、先に手を洗ってくる……」
押さえても溢れ止まらない赤が、美術室の床にまで落ちている。
ちょっとした事件現場みたい。
なんて馬鹿げた事を考えても、さっきから、机の上にある『作者:神無月メイ』と、ピンクで書かれてある本がチラついて仕方ない。