“スキ”を10文字以内で答えよ
「すみませんね」
口調の差が随分と激しいものだ。
保健室になんか来るんじゃなかった。
先生は私を見た途端に、驚きとも呆れとも見てとれる表情を浮かべた。
「奈神……。何やらかした。手首切った奴みたいになってんぞ」
血が嫌いな私が、リストカットをするとでも思ったのか。
あからさまに不機嫌な顔で、「そんなことする訳ないでしょ?」とだけ言うと、先生を押し退けて保健室のソファーに座った。
「悪い悪い。で、どうしたんだよ」
「彫刻刀でザックリと」
自分で言ってみたが、感触と痛みが同時に思い出される。
まだまだべっとりとしているが、少し乾いてきたようだ。
早く手を洗わなければ。
「あー……。もうお前そこから動くな。水くらい持ってきてやるから」
洗面器を棚から取り出し、蛇口を捻って水を出す。
キュッと蛇口を締め、タオルも一緒に持つと、私の前に持ってきてくれた。
「ありがとうございます……」
チャプン、と冷たい水の中に、ゆらゆらと紅い糸が、何重にも重なって揺れて、消えていく。
ぼんやりとその様子を眺めていると、水の中にある手が、2つ増えた。
その手で、その指で、私の手を包み込み、傷口をそっと優しく撫でる。