“スキ”を10文字以内で答えよ
一緒に居る時間が長ければ長くなるほど、相手のことが好きになっていく。
その時間が二人の秘密であれば、尚更だ。
再確認してしまった昼休み、釈然としない気持ちを置いて、お弁当箱を机に置く。
希里の隣の席に座ったところで、彼女がぼんやりと訊いてきた事から始まった。
「ねぇ、実依。好きって、何なんだろうね……?」
「えぇっ?!…あ、希里か………。どうかしたの?」
てっきり自分の声かと思って驚いたが、どうやら希里も悩んでいるようだ。
あまり悩み事を言わない希里だから、相談に乗ってあげられるのなら………
「何でその本?!!」
「え?いいじゃん、別にぃ。何か、こういう本読んでると、『あー私もこういう大人な恋したいなー』って思うだけだよ?」
「悪い?」とムッとした顔で訊かれたので、「そんな事ないよ!!」とだけ言って、希里が持っている本に釘付けになる。
少しでも相談に乗ってあげられたらなと、少し思ってしまった私に、大いに後悔する。
ああ、ヤダな。
自分の小説を友達に読まれるのって。
しかも、官能小説を……。
ピンク色の表紙が、嘲笑うかのように私の視界を支配する。
せめて……希里、せめてブックカバーだけでも付けておいてくれたらな……!!
「この作者さん、女の人よね?いいなぁ、この人。きっと良い恋してきたからこんな小説書けるんだろうなぁ……」
ごめんなさい、今まで良い恋なんてしてきたことがありません。
「そうかなぁ?この人の妄想ってことも有り得るんじゃない?!」
「そんな事無いよー!実依は読んでないから分かんないだろうけど、読んでよここ!!良い感じなベッドシーンでさ、この彼氏の言葉が……」
「いいっ!!私、そういうの読むの苦手だから!!」
「ええー?!実依はそういうとこ、お子様だよねぇー。やっぱ小学生。顔、真っ赤だけど?」
頬に手を当てて、手鏡で自分の顔を確認する。
興奮しすぎて、疲れきった子供みたい。
「そんなんじゃない!もういいよ、希里。お昼にしよ!本閉じて食べよ!!希里が頼んでたサンドイッチ作ってきたんだから」
「えっ、本当に?やっぱり優しいなぁ、実依は」
「でしょ?」
わざとらしく得意げな顔をしてみせ、無理矢理本を閉じさせる。
希里とは入学時からの仲で、長く一緒に居れば居るほど、彼女のことが好きになる。
先生とのことも、これと一緒でしょ?
……恋愛なんて、誰が言ってやるものか。