未熟な天使 *恋と心理学と彼とわたし*

廊下へ出て、非常階段の前を過ぎようとしたとき。


ガタンと音がして、強引に腕を引かれた。



重い扉が閉まり、顔を上げる。



「…なに?」


戸惑いながら尋ねると、彼は意地悪に笑って答えた。


「ただ歌ってるだけじゃ、つまんないじゃん」


いつもと違う ――


眼鏡の奥の彼の目は、そんな風に見えた。



「リカと林田くんは?」


「部屋にいるよ」


早口で話す、その態度もなんだか違う人みたい。


「どうしたの?」


下を通る車の列を見降ろしながら尋ねた。
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