遠い坂道
「はい、では早速ですが出席を取ります。自己紹介したい人は、名前を呼ばれた時に立って下さい」
「何それー」
女子生徒達が笑った。私も笑い返した。
「それじゃ、浅田夕君」
「はい。……去年も同じクラスだった人も、そうじゃない人も気軽に話しかけて下さい。趣味は料理です」
マジかよ、と男子生徒の合いの手が入る。浅田君はマジマジと言って席に座った。
「次、荒木……み……とや君?」
教室内の空気が一気に冷えた。皆、息を殺している。返事はない。
「荒木美都夜(あらきみとや)君」
私は強めに繰り返した。
「…………はい」
ははあ、自己紹介しないつもりなわけか。
照れ臭いのだろう。この時期の男子生徒はその傾向が強い。
ま、返事をするだけ良しとしよう。
しかし、最近の子供は奇抜な名前が多いと思う。
荒木美都夜……美しい都の夜、ね。ご大層な名前だ。女の子につけるような名前である。
私は興味をそそられて荒木君を見やった。
時が止まる。