遠い坂道


 席を立ってお喋りをしていた生徒達が、いっせいにこちらを注目する。




 沈黙。




 何を言わずとも、生徒達は席に着いてくれた。顔に出さないよう気をつけながら、安堵する。


 どうやら、当たりのようだ。このクラスは比較的真面目な方だろう。


 入ってきた時に感じる雰囲気で、大体予測は立てられる。


 問題児が多いクラスにベテランの先生は配置されるものだ。だから、村上先生が担当するこのクラスも問題児が多いのでは……と危惧していたのだが、その心配はないようだった。


「おはようございます」


 にこりと笑いながら、頭を下げる。


「おはようございます」


 生徒達はまばらな挨拶を返してくれる。去年の私は一年と三年の現代国語を見ていた。だから、この場にいる生徒達を直接教えたことはない。

 しかし、中には職員室にいると声をかけてくれた生徒が数人いた。彼女達は私に小さく手を振ってくれる。それを見て、少しだけ緊張がほぐれた。


「副担任の高崎真琴です。担当は国語で、これから一年は皆に古典を教えることになりました。よろしくお願いします」


「えっ、先生が担任じゃないの?」


「担任って誰?」


 生徒達は身を乗り出して聞いてきた。


「担任は村上先生です。本日はホームルームが終わり次第こちらにいらっしゃいます」


「ああ、村上先生ね。今日、娘が中学校の入学式だから遅れてくるって言ってた気がする」


「あんた、いつ訊いたの?」


「春休み中。ほら、あいつサッカー部の顧問だろ。俺達相手に愚痴ってたぜ」


 クラス中が良い雰囲気に包まれる。

 ……それにしても村上先生。
 あなたは生徒にまでそんな理由を話していたのですか。

< 19 / 61 >

この作品をシェア

pagetop