遠い坂道
四限目を迎える頃には、生徒達の大半が集中力を切らしている。
予鈴のチャイムが鳴り響く中、生徒達が慌てて教室へ駆け込んでいく。廊下の窓から新鮮な土のにおいが漂ってきた。桜は既に盛りを過ぎ、散っている。
三年五組の教室に入ると、皆がこちらを向いた。
学級委員を務める田邉(たなべ)君の号令がかかる。
「起立、気をつけ、礼。……着席」
「はい、本日欠席の人は――」
私は出欠簿と教卓に貼られた席順、そして教室に目を走らせて確認した。
はた、と視線が止まる。
荒木美都夜の姿がない。
私は再度、出欠簿を見た。
荒木君は三限目まで確かに出席となっている。
彼の机にはカバンもかかっていないし、いる形跡はない。早退したのか。いや……それならば報告があるはずである。
「荒木なら、来てません」
私が考えあぐねていると、荒木君の隣席に座っている若松さんがすまし顔で言った。
私は眉をひそめる。
「朝から来てないの?」
「はい」
おいおい、ならどうして三限目まで出席になっているのだ。
私はそのツッコミを心の中に仕舞う。
生徒達に言ったところで、彼らには関わりないことだ。出欠簿は先生がつけるものである。
「どうせサボりだろ」
「そうそう」
生徒達が、やんやと騒ぎ出した。
私は出欠簿と睨み合う。ホームルームの時、荒木美都夜は欠席になっている。しかし、一限目の数学の授業は出席。
これは……数学担当の笹木先生に問い質さねばなるまい。
怠惰な笹木先生の顔が浮かぶ。私は溜め息を吐いた。最近、疲れることが多い。職業柄仕方ないが。