遠い坂道

 弁解じみた言葉を発する生徒達を見回し、長瀬さんは馬鹿にしたように鼻を鳴らした。


「美都夜さんと話したこともないくせに」


「そりゃあ……」


 生徒達は誰か反論しろとばかりに互いを見やる。


「とにかく。これ以上、美都夜さんの悪口言ったら許さないんだから」


 何をどう許さないのか、ぜひとも教えてほしい。そう思ってしまうのは、私が捻くれているからか。



 長瀬さんの怒りに圧されて場が静かになったことで、ようやく授業を開始出来る。


「はい、それじゃあ授業を――」


「先生もちゃんと叱って下さいっ」


 こめかみに青筋を立て、長瀬さんは私を睨んできた。


「ああ……ごめんね」


 正論を前に反論の余地はない。私は素直に謝った。長瀬さんはむっつりと俯いて席に着いた。


 授業は粛々と進んだ。しかし、その雰囲気はきわめて悪く、息が詰まりそうだった。


 嫌な雰囲気を作る元凶となった長瀬さんは、そんな空気に呑まれもせず背筋を伸ばし、凛とした姿で板書をノートに書き写していた。




< 38 / 61 >

この作品をシェア

pagetop