遠い坂道
弁解じみた言葉を発する生徒達を見回し、長瀬さんは馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「美都夜さんと話したこともないくせに」
「そりゃあ……」
生徒達は誰か反論しろとばかりに互いを見やる。
「とにかく。これ以上、美都夜さんの悪口言ったら許さないんだから」
何をどう許さないのか、ぜひとも教えてほしい。そう思ってしまうのは、私が捻くれているからか。
長瀬さんの怒りに圧されて場が静かになったことで、ようやく授業を開始出来る。
「はい、それじゃあ授業を――」
「先生もちゃんと叱って下さいっ」
こめかみに青筋を立て、長瀬さんは私を睨んできた。
「ああ……ごめんね」
正論を前に反論の余地はない。私は素直に謝った。長瀬さんはむっつりと俯いて席に着いた。
授業は粛々と進んだ。しかし、その雰囲気はきわめて悪く、息が詰まりそうだった。
嫌な雰囲気を作る元凶となった長瀬さんは、そんな空気に呑まれもせず背筋を伸ばし、凛とした姿で板書をノートに書き写していた。