遠い坂道
当の本人がいないところで、どうしてここまでこき下ろせるのだろう。
噂だけでその人となりを判断する、残酷さ。無邪気さ故の言葉の暴力。
脳裏に苦々しい思い出が過ぎった。
泣いている少女、笑う者、傍観する者。そして――。
私はせり上がってくる怒りを必死に抑える。ここで私がヒステリックになってしまったら、生徒達は反抗する。ますます、荒木君のことを悪し様に言うだろう。
正しいことでも、振りかざせば悪と判断されてしまうものだ。
呼吸を整え、無理矢理口角を引き上げる。
「はい、皆そこま――――」
「やめなさいよっ!」
頬を紅潮させた少女が、机を思い切り叩いて席を立った。
しん、と皆黙す。
背の低い少女だった。
チョコレート色のショートボブが彼女の輪郭に纏わり付き、小さな卵型の顔をより小さく見せる。少女は一重の切れ長な目を細める。
制服は崩しておらず、スカート丈も膝の少し上と校則を守っている。
一見、大人しい和風美人に見えるのだが、眼光の鋭さからして、結構ガンガン物を言うタイプなのかもしれない。
私は席順で彼女の名前を確認した。恥ずかしながら、まだ席順を見ないと名前が出て来ないことがある。
長瀬沙世(ながせさよ)。それが彼女の名前だった。
「美都夜さんがいないところで悪口言うなんて、卑怯よ!」
長瀬さんの怒りに燃える瞳が眩しい。何とはなしに、目を逸らしてしまう。
「別に悪口言ってたわけじゃ……」
「そうよ、ただ噂を――」