愛し方も知らず僕等は

男の人は目をやんわりと細め、薄い桃色の唇から白い歯を見せ、まるで子供のように無邪気な笑顔をあたしに見せた。
あたしの胸は思わず、ドキン、とする。少しだけ、恐怖感が和らぐ。中学生のあたしより、確実に年上のこの男の人がこんなにも無邪気な笑顔を見せるとは。あのうんと落ち着いた声を出す男の人だとは思えないほどの笑顔だ。

「今の着信音、Locksの『優しい風。』ですよね」

男の人は笑顔のまま言った。その通り、正解だった。
Locksはメジャーデビューをしていなくて、かなりマイナーなバンド。
その中でも「優しい風。」はバンドを結成したばかりの時に作られた曲で、ライブの時だけしか聴けない隠れた名曲だ。
その隠れた名曲を知っているということは、この男の人もかなりのファンなのだろうか。
< 4 / 26 >

この作品をシェア

pagetop