コイビトは
その歌を聴きながら、俺はふと、たとえ、俺が今でも社長の息子でいられても、彼女たちとは出会っていたんじゃないか、なんて気が起きた。




どういう理由でそんなことを思ったのか――説明はできないけど。




曲が終わると、ラヴィコがてこてこと走ってきて俺の前に来た。



「ありがとう! 顔出してくれて!!」



俺は、なんとなくその顔を見て安心したのだけど、原田さんのことを思い出して、なぜだか、後ろめたさを感じた。

だから、いつものテンションで返事する気にもなれなくて、あいまいにうん、とうなずいた。




「こんな遅くまで、歌ってるんだね」


「うん、って…あれ、薄田さん、電車大丈夫なの?」


「乗り遅れちゃった」


俺は苦笑した。


「え…大変、どうするの?」
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