君が、好き…?(短)
「……どーしても呼んでくんないよね、名前」
だめだと諦めて立ち上がった時、寝ていたはずの彼が動かないまま喋った。
「おき、てたの」
突然のことに肩が跳ねた。
マフラーを巻いていた手が止まり、そのままの状態で彼を見下ろす。
横を向いているせいで、マロンベージュの髪に隠れた表情は伺えない。
ただ、いつもの声より何倍も低いそれのおかげで、怒っているってことは分かった。
「浩介のことは、“浩くん浩くん”って呼ぶくせに……俺には“ちょっと”とか“ねぇ”とか」
「……なに言ってんの、今更」
「傷ついてんのにも気づかない」
寝ぼけているのかなんなのか、ずっと同じ体制で、若干呂律が回っていない悠。
酔っ払って絡まれたら相当ウザいタイプだろう。
「しかも無防備。あのまま浩介にキスされてたらどうするつもりだったんだよ」
「なっ!どっから起きてたのよ」
「浩介が来てすぐくらい」
「なにそれ、」
ムクッと起きあがった悠があんまり情けない顔するから、それ以上何も言えなくなった。