SIGHT
母は近くのスーパーマーケットで正社員として働いている。もちろん今日も出勤している。なので、家には誰もいない。

私が小さな頃からずっと勤務しており、今では重役にまで登り詰めているらしい。


玄関の鍵を家の外にあるポストから取り出し、2日ぶりに家の敷居をまたぐ。


たかだか2日だというのになぜか何年も家を離れ帰って来たような
感覚だった。

それほどあの四角い密閉空間は息苦しかった。


嫌いな訳ではないが、
あの独特な空気は何度
自身の身で感じても
慣れはしない。


「いかん、ゆっくりとしている暇はない。」


確か昼明け一発目の
講義は例の教授だったはずだ。


帰ってきてまだ10分も
経ってはいなかったが、
必要なものを鞄に
詰め込み、家を出る。


自転車を全力でこいでも
大学までは1時間ほど
かかる。


本気でこいで行く訳もないので
今の時間に家を出て
だいたい丁度良い時間になる。



「せっかく寝る間も惜しんでレポート作ったのに結局提出期限まで
間に合わなかったな。」


そう思うとペダルをこぐ両足がへにゃへにゃと脱力してしまった。


「はあ、あの堅物を説得するのは骨が折れる。」


キコキコと悲しげな
音を響かせて
私は一人大学へと
歩を進めた。

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