SIGHT
「さて、今から大学行けば昼からの講義間に合うな。」

病室の受付で支払いを済ませ、私は外にでた。
外はもちろん寒いが、
私の財布の中身も随分と寒くなった。


「一度家に帰るか。」


幸い、病院から私の家まではさほど遠い距離ではない。


リハビリも兼ねて私は歩いて帰ることにした。
正直入院した理由も詳しくは知らないが
退院できた時点で
私にとってそのことは、大した問題ではなくなっていた。


冬の朝というのは空気が澄んでいる。
呼吸をする度に新鮮な空気が体内に取り込まれ、
喉元に冷気が残りひんやりとして気持ちがいい。
普段は大抵自転車で移動しているので、こうして歩くのは本当に久しぶりだ。


ゆっくりとした歩調で、景色を見ながら家に帰る。
周りの木々は冬の厳しい寒波によって骨組みだけの貧相な姿になっており、「まだ春は来ぬか。」
今にもそう言いそうな
風貌で遊歩道に乱立している。

しかし、いざ春が来るとこの何の規則性も感じられない乱立された木々が各々相談しながら若葉を息吹かせたように
全体で一つの作品に変化する。


その光景が見れるまでは今しばらくかかりそうだ。

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