オフィスの甘い罠
「なんでしょうか」



無表情で課長の席の前に
移動すると、課長は座った
ままあたしを見上げて、



「先に副社長に挨拶して
きたみたいだな?

一応私が辞令書を
預かってるから、渡すよ」



そう言って、賞状を渡す
みたいに1枚の紙を差し出した。



無言で文面を覗き込むと、
柊弥の言った通りあたしが
秘書室に異動ってことが
書いてある。



(ご丁寧にこんなものまで……)



破り捨てたいのを我慢して
それを受け取ると、課長は
続けて、



「こんなことは初めてで、
私も驚いてるんだが。

せっかくの大抜擢だから
頑張ってくれ。

やりかけの仕事は誰かに
引き継いで、済んだら
私物だけ持って副社長室に
行ったらいい」



「……わかりました」



押し殺した感情のない声で
言って、あたしは席に戻った。
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