オフィスの甘い罠
タクシーに乗せて、動き
出した車を手を振りながら
見送って……。



タクシーが見えなくなった
ところで店に戻ろうかと
きびすを返しかけた、
その時だった。



「あれ……もしかして
梓ちゃんじゃない?」



少し離れた所から耳に
届いた声に、あたしは硬直
したように立ち止まる。



恐る恐る体を戻して、声の
した方を見ると――



「やっぱり、梓ちゃんでしょ!?

ビックリしたぁ〜、こんな
所で会うなんてぇ!」



傍を通りかかった数人の
大学生っぽい集団の中
から、一人の女のコが
あたしに呼びかけてた。



「るりちゃん――…!」



ビックリしたのはこっちの方だ。



なんでこんな所にいんのよ?

アンタの家は、全然場所
違うでしょ??



「ん? 知り合い?

杏奈(アンナ)さん、梓って
ゆーんだ?」
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