彼の視線の先、彼女。
はやく通り過ぎてくれればいい。
そう思う。
苦しくて仕方ないから、その2人の笑顔は見たくないから。
「はやくしねーと」
「分かってるって」
近づいてくる声、ギュっと目を瞑る前に前を見るともうそこまで近づいていた。
辞書を取りに行ってたっぽくて2人で辞書を抱えていた。
どうにか意識を他へ飛ばそうとして千尋に話し掛ける。
黙って目を瞑ったままでも、きっと気になるから。
「千尋、あのっ。・・・っ怒られるかな?」
当り障りの無い、気の利かない言葉。
千尋は、何も言わない。
からかう事も無く、慰める事も無く。
どうしたのかと思いそっと顔を上げる。
「え・・・っ」
そのとき、少し高めな声。
その驚いた声は、私のものではない。
隣を通り過ぎる瞬間だった、爽香ちゃんのものだった。