月待ち人
放課後、ツキの病室へ行く。正式な結果が出るまで後4日
彼女はいつも通りに笑顔で出迎えてくれた。
「奥出くん、いつもありがとう」
彼女がオレを「奥出くん」と呼ぶ…その瞬間がたまらなくキライ
「いいよ、ついでだし藤野も元気そうだね」
ツキを藤野と呼ぶこの口も大キライ
授業のノートを渡して手近なイスに腰を降ろす。
学校の事とかくだらない話とか、しゃべり出したら止まらなくて、面会ギリギリまで話が尽きる事は無い
「…で、先生がさ」
「何それ。ダメじゃん」
オレに対しての笑顔じゃなくてもツキが笑ってるのを見れるだけですごく嬉しい
「奥出くんの話って面白いよね」
「そうか、ただの近況報告だぞ」
「だって…くだらなすぎて」
といいながらツキの笑い声は収まらなかった。記憶が戻る気配は微塵も無く、オレは良いクラスメートの「奥出くん」を演じ続けた。
彼女が退院するまで毎日通った。行く度に思い出したかのように打ち解けていって、すごく嬉しかった。
ツキの記憶が消えた時、オレも一緒に消えるつもりでした。
でも、そんな勇気はオレに無くて
ツキの心に居座れるには何をあなたに捧げればいいのですか?
神様……


望みの物を何でも捧げます。
再びツキの心に居座る事をどうか許してください。
何よりも誰よりもツキだけが大事…。
「ツキ…本当に大好きだよ」
静かに眠る彼女の額にそっと唇を落とした。
願わくばツキだけは幸せでありますように
「これで最後にするから……」

病室付近で倉本らしい人とすれ違ったけど…単なる見間違いだろう。

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