月待ち人
君の名前を口にしただけで苦しいのに…なんでキライになれないんだろう


「………だよ…」



教室に入ると倉本が駆け寄ってきた。
「藤野さん入院したのか?」
「昨日ね」
あまりにさっぱり答えるオレに倉本は怪訝そうな目を向けた。
「何かあったのか?」
「無いよ、なぁーんにも、全部無いから」
はじめから何も無かったんだ。オレはツキにとって初対面の男子生徒、それだけで充分じゃないか。
幼馴染みでも恋人でも無い普通のクラスメート
ツキに想いを寄せる事はもうしない方が良いですか?
「お前…泣きそうな顔してる」
倉本の声が急に変わった。目を合わせると吸い寄せられるようにジッと見つめられた。
「倉本…」
「藤野さん何かあったんだろ」
倉本はやっぱり冴えている。でもこの事は言わない
「特に問題無いよ」

納得いかない顔をしていたが、それ以上会話したくなくて勝手に終了させた。

「なら…いいんだけど、1人で抱え込むなよ」
ゴメン…倉本、 認めたくないだけなんだ……。
オレ、弱虫なんだよ。
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