先輩と私。


「先輩…。 あんなコトいって、大丈夫だったんですか?」


「ん、大丈夫だろ」


「えぇ…、本当ですか?」


「んー、多分? ま、店に対する思いとか、桜を大切にしたいって気持ちはホントだし」



私も、先輩のこともっと大切にしたい…。


もっともっと、先輩のことを好きになった瞬間だった。




「あ、ところでさー」


「はい?」


「バイトして欲しかったものって、何?」



そーいえば…。


私は確かあのワンピースが欲しくて。


元はと言えば、先輩にもっと気に入られたくて。



…すっかり忘れてたぁ。



「えっ、いやっ! べつになんでもないですっ」


「もー、何だよ?」


「…だから……、女子力を上げるワンピース…」


「はぁ!? ワンピース!?」


「40000近くしたんです…。 それを着て、先輩にもっと好きになって欲しいって…」


「なんだ、そんなコトかよ?」




そんなコト…って。


ひどい。


私だって、必死だったのに…。



「そんなコトしなくたって、俺は桜のこと、好きだけど?」


「…えっ」


「一目惚れナメんなよっ」


「でもぉ…」


「ワンピースなんかなくたって、桜は桜のままでいい! 桜のままの桜が、一番好きだから」




先輩のその言葉を聞いて、後悔した。


なんで私、物に頼ろうとしてたんだろ?


人の気持ちは、物で動かせるものではない。


動かせたとしても、それは偽りのココロ…。



大切なものに気づいた気がする。


バイトして、失敗して、やっと分かった。



私は絶対この経験を忘れないと思う…。


お金や物なんかで先輩の気持ちを独り占めしようなんて、


甘かったんだ―――。



「ばーか」



先輩はまた私を抱きしめた。



今度はもっと、ぎゅっと、強く…。
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