たからもの
「他校の野球部にバレると色々面倒なんだよ。じゃなくても今は大会中なのに」

「分かった」

翼の返事とともに信号が変わる。

「もちろん姉ちゃんの好きな人にもだぞ。俺に関して、変な相談するなよな。好きな人に近づくために弟をダシに使うなんて、サイッテー」

「だっ、誰も隆人くんに相談するなんて言ってないじゃない!」

「へぇ、隆人くんって言うの?」

「……。別にヒナちゃんには関係ないでしょ」

「あるよ。お義弟さんになる人かもしれないじゃん」

「あんたもしつこいわね。人の事言えないじゃない」

駅でも同じことを言っていたので、翼はそう言い返してやった。強めの口調で言ったつもりだったが、言われた本人は「そうかなぁ」などと流暢な事を言いながら、人差し指で頬をかく。

「でも姉ちゃんが男の事、下の名前で呼ぶなんて珍しいね」

「そ、そうかな」

「小学校の時から、ずっとそんな事なかったじゃん。何かあったの?」

自分の事を追究されると怒るくせに、人の恋沙汰にはいつも楽しそうに首を突っ込んでくる。

「私も最初は古橋くんって呼んでたんだよ。でもさ、隆人でいいよって言うから」

「古橋隆人って言うんだ?」

「あ……」
< 37 / 44 >

この作品をシェア

pagetop