たからもの
車内アナウンスが流れ、次の駅名を告げた。ここで降りる人は結構多い。そのため既にドア付近には、ちょっとした人だかりが出来ていた。

そこに陽も加わる。

「あ、じゃあね今日香」

「うん。また明日」

翼たちはひと駅しか乗らないが、今日香は後20分ほど電車に揺られなくてはならない。
そんな今日香に別れを告げて、翼は陽の後を追う。

自宅は駅から歩いて10分ほどだ。
大通りで車がたくさん走っている横の歩道を、並んで歩く。久しぶりだった。

昔はよくここの道路を並んで歩いた。
けれど陽が野球を始め、名前が有名になり、忙しくなってからは一緒にいる事さえ少なくなった。

「本当に平気なの?」

駅を出てから少しも喋ろうとしない陽に尋ねる。

「しつこい」

「だってさぁ」

「それより、俺が怪我した事、あんまり言いふらすなよ」

「何でよ。別に言いふらしたりはしないけど……」

横断歩道の信号が赤になった。2人は立ち止まり、目の前を何台もの車が通り過ぎていく。

「バレたら困る」

「誰に」

陽は大きくため息をついた。きょとんとする姉に呆れた。今日は一体、何回ため息をつくことになるだろう。
< 36 / 44 >

この作品をシェア

pagetop