彼の失敗は言えなかったこと
「まだ起きてたのかよ。寝なくて大丈夫か?」
カーテンから漏れる、月明かりだけを頼りに、歩み寄る。
この際、航の発言など無視だ。
「ちょっと、右手貸して」
「なんだよ、藪から棒に」
左手を額に当て、ソファーで眠っていた航の右手を、少し乱暴に掴む。
力なく項垂れる右腕。少しばかり細くなっている気さえする程に、弱々しい。
「航、右手動く?」
「はぁ? 動くよ」
「うそ」
「何が言いたいんだ?」
動くと言われた腕は、抵抗もなく、ただただ力なく項垂れているだけ。
あ、ダメ……。
「ごめんねぇ……。わたっ、るぅ……」
抑えていた、のに。
「ばれた?」
「ばかぁ! ばかぁぁ、っ……!」
「あぁ、すまん。馬鹿な元カレで」
航の胸。匂い。温もり。全部懐かしい。何も変わらない。