EGOISTE
俺も水月のことが好きだった。
でもそれは恋心じゃない。
友人として、気を許せる数少ない人間として、だ。
だから水月には幸せになって欲しかった。
今水月は鬼頭という女にその幸せを見出してる。
鬼頭は好きじゃないが、水月が幸せだったら応援したいし祝福したいと思う。
幸いなことに鬼頭も水月のことを心から愛しているようだし。
だから二人の間に今は何も壁がない。
「ところで姉さん、何で急に帰国なんてしたのさ」
気を取り直した水月がコーヒーを飲みながら聞いた。
歌南はバッグからタバコを取り出すと、一本口にくわえた。
流れるような動作で火をつける。
その仕草は昔から変わってない。
「どうしてって、ちょっと里帰りよ」
「里帰りなら実家に帰れよ」
俺は歌南から顔を背けるとそっけなく言った。
「いいじゃない。どこに行こうがあたしの勝手でしょ?」
「迷惑なんだよ」
「あたしがいつあんたに迷惑かけたのよ」
「存在自体がだ。この女狐め」
お前が送りつけてきたエアメールのせいで、こっちは恋人と大喧嘩だ。
「何ですって!このクソガキが!」
この場にいる人間なら誰でも見えた筈だ。
俺と歌南の間に見えない火花が散っているのを。