EGOISTE





俺も水月のことが好きだった。





でもそれは恋心じゃない。


友人として、気を許せる数少ない人間として、だ。





だから水月には幸せになって欲しかった。


今水月は鬼頭という女にその幸せを見出してる。


鬼頭は好きじゃないが、水月が幸せだったら応援したいし祝福したいと思う。


幸いなことに鬼頭も水月のことを心から愛しているようだし。


だから二人の間に今は何も壁がない。






「ところで姉さん、何で急に帰国なんてしたのさ」


気を取り直した水月がコーヒーを飲みながら聞いた。


歌南はバッグからタバコを取り出すと、一本口にくわえた。


流れるような動作で火をつける。


その仕草は昔から変わってない。



「どうしてって、ちょっと里帰りよ」


「里帰りなら実家に帰れよ」


俺は歌南から顔を背けるとそっけなく言った。


「いいじゃない。どこに行こうがあたしの勝手でしょ?」


「迷惑なんだよ」


「あたしがいつあんたに迷惑かけたのよ」


「存在自体がだ。この女狐め」


お前が送りつけてきたエアメールのせいで、こっちは恋人と大喧嘩だ。


「何ですって!このクソガキが!」



この場にいる人間なら誰でも見えた筈だ。


俺と歌南の間に見えない火花が散っているのを。







< 12 / 355 >

この作品をシェア

pagetop