EGOISTE

何も言い出さない水月に俺の方が戸惑った。


「なぁ……」


「どうして?子供できた…とか?」


思いのほか強くてしっかりした口調だった。


こいつにあるのは、俺が想像していたどんな感情よりも違っている。


こいつの顔から見える感情は―――怒気……だった。





「まぁ結果シロだったわけだけど。お前気を付けろよ。相手はまだ高校生だぞ?」


俺は水月の怒りに見て見ぬ振りを決め込んだ。


正直、何で怒ってるんだよ?何機嫌悪くしてんだよ!ってむかっ腹も立ったけど。


こいつは滅多なことが無い限り怒らない人間だ。


元来が穏やかで、平和主義者なわけで、理由もなく苛々したり人にあたったりする奴じゃない。


「僕は一度も手を抜いたことはないよ?」


ちょっと眉間に皺を寄せ、水月がタバコに手を伸ばした。


まだアイスコーヒーに口をつけていない。


苛立ったように乱暴にライターをすると、タバコに火を点け、腕を組んだ。


「まぁどんなことにも100パーセントってことはないけどな……」


水月の苛々が伝染したんだろうか、俺も苛立ちながらタバコに火を点ける。


「気をつけろってことだ」


言い切ると、煙を吐き出した。


今くすぶっているもやもやしたものも、一気に吐き出せると楽なんだが。







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