気まぐれ社長の犬

次の日通院している病院に行った。


名前を呼ばれ診察室に入ると見慣れた若い男性の医者がこちらを見る。



「久しぶり、妃和ちゃん。予約の日より早いけどどうかした?」



私のことを妃和ちゃん、と呼ぶ彼は私の高校時代の先輩であり初恋の相手だったりもする。

まあその恋は叶いはしなかったのだけど。



「最近海外出張が多くて疲れてたせいか、昨日酷い頭痛と目眩に襲われて…」


「そう…どうせまた無茶したんでしょ」



図星をつかれた私は黙ったまま俯いた。



「言ったよね、妃和ちゃん?君の良すぎる視力は脳への負担が大きい。脳に送られる情報量が多すぎるんだ。今の生活を続けていたら…いつか脳がショートしてしまうかもしれないよ?」


「っ…わかってます!でも…今の生活は辞められません。すみません。例えこの脳が壊れたとしても、それでも私はあの人を守りたいんです。一緒にいたいんです」


「妃和ちゃんが心から居たいと思う居場所を見つけられたんだ、僕だって奪うつもりはない。だけど…もっと自分を大切にしてくれないか?僕は…心配なんだよ」



悲しそうな目で私を見る彼に、軽く唇を噛む。




「久桜(くおう)先輩、それは先生としてですか?それとも親友の彼氏としてですか?それとも…私の先輩として、ですか?」



久桜先輩は驚いた顔で私を見たけど、すぐに神妙な面持ちに変わった。
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