気まぐれ社長の犬
「俺はお前が必要だ。だから帰ってこい」
俺は腕を掴んだまま歩きだした。
「ちょ、ちょっと!!」
こいつ、放っておいたら何するかわかんねえし。
なんか見てると壊れそうで消えそうで、放っとけないんだよ。
「離して!!」
「あ"?めんどくせえな……」
俺は妃和をぐいっと引き寄せると唇に軽くキスをした。
「お前は俺の婚約者兼ボディーガード。それでいいな?」
「えっは…い……」
驚きながらも返事をした妃和の腕を引っ張ってまた歩きだす。
もう妃和は何も言わなかった。
家に帰ると親父が待っていて、妃和を見つけると安心したような表情を見せた。
「妃和ちゃんおかえり。大丈夫?」
「はい…心配かけてすみません」
「いいんだよ。ほら、風邪ひいちゃうからお風呂入ってきなさい」
妃和は親父に促されて風呂に入って行った。
「…で、お前は納得したのか?」
「何がだよ?」
「妃和ちゃんが婚約者になってボディーガードすること」
「するしかねえだろ」
「婚約は嫌だったら破棄してくれていい。でもボディーガードはそのままだ。いいな?」
「ああ。ただ、あいつ大丈夫なのかよ?今の俺の環境は結構危険だ。大怪我したら責任とれんのかよ?さっき思い出したけど、あいつ花月家の令嬢だろ。あっちの親が黙ってないんじゃねえの?」
花月っていえば風間グループほどではないけどまあまあ大きな会社の社長だ。
そこの令嬢に怪我なんてさせたら大変だろ。
「へーよく覚えてたね」
「前どっかのパーティーにいたからな。あいつの親、妃和のこと色んなパーティーに連れまわしてるだろ。……道具みたいに」
ふとパーティーの時のあいつの顔が頭に浮かんだ。
自分に集まる男たちに綺麗に作った笑顔を向けて、だけど時々冷たい目をしてた。