夕闇の旋律
「詩音?今の……」

「贈り物。魔法もなにもないただの歌だけど。答え、聞かせて……?」

「俺は……俺にとって詩音は、詩音でしかなかった。何にも例えることができない、たった一人の女の子。歌がうまくて、作曲がうまくて、強引で、たまに不思議でよくわからなくて、可愛くて、優しくないけど俺のために頑張ってくれるし、こうやってすぐ近くで、一緒に歌ってくれる。詩音は確かに俺を救ってくれたし、幸せにしてくれた。でも、詩音の歌は、そんなのどうでもよくなるくらい感動して、希望が持てて、奇跡だった。ただ、そこにいてくれるだけで、俺は……」

悠矢はそこで言葉が続かなくなってぐっと目をつぶった。

つないだ手を放したくなくて、強く握った。

詩音は痛かったかもしれない、けどなにも言わずに待っていた。

「俺は、詩音に力をもらって、魔法を紡ぐことができたよ。他の誰のためでもない、詩音だけのためにある詩が。好きだから……。絶対、死ぬまでずっと」

「そう、お互い死んじゃうまで、絶対にそこにあるって信じられる。だから、最後に歌ってくれませんか?」

「たった一度の歌を、一緒に歌ってやる」

「たった一回の特別な歌を、悠矢くんと歌えるのが……すごくうれしい。うれしいよ……
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