永遠の翼
学校が終わって、教会へと向かう。


いつもの通りに、いた。


「茜」


私はその名前を呼ぶ。


「あらあら、優子ですか」


「宏さんは?」


「今日は来てませんよ。今ごろ、家で練習しているんでしょう」


「ふーん」


なら、よかった。


「今のあのひとにふさわしい曲を渡しましたから」


「何それ?」


「じきに分かりますよ」


そう言う茜は上機嫌だった。


「彼はもう大丈夫ですよ。きっと、彼の音を見つけられます」


「そう・・・」


「彼は歩き出しました。あとは、あなたですよ」


茜がこちらを向いて言う。


「・・・・・・」


「いつまでも、同じ場所に留まっていていいんですか?いつまでもヴァイオリンを弾くことができないことに囚われていて・・・いいんですか?」


「・・・・・・」


茜の厳しい言葉。


―――そんなわけ、ない。


ヴァイオリンを弾くことができないことに囚われたままでいいわけがない。


けど、茜の言うことは事実だった。


私は、未だに・・・引きずっているのだ。


夢を失ったことを。



< 116 / 230 >

この作品をシェア

pagetop